「お金より人」の時代へ:慶應義塾大学・岩尾俊兵准教授が語る「人本主義」経営の真髄

「お金より人」の時代へ:慶應義塾大学・岩尾俊兵准教授が語る「人本主義」経営の真髄 国内政治
「お金より人」の時代へ:慶應義塾大学・岩尾俊兵准教授が語る「人本主義」経営の真髄

慶應義塾大学商学部准教授の岩尾俊兵氏が、YouTubeチャンネル「ニュースの争点公式チャンネル」で「お金より人」を重視する「人本主義」経営の重要性について語った。自身の著書『経営教育』の内容にも触れながら、現代社会の閉塞感を打破するための経営教育の必要性を訴え、日本的経営の強みを強調した。

閉塞感を打ち破る「経営教育」とは

岩尾氏は、自身のこれまでの活動の集大成として『経営教育』を執筆したと語る。その根底にあるのは「人間の価値がもう一回お金の価値よりも高い状態にしよう」というテーマだ。現在の社会は、お金が人間を振り回している状況にあると指摘し、「誰かを泣かせてその分誰かが笑うみたいな奪い合い」が蔓延し、「日本全体を不幸にしてるな」と感じるようになったという。

この状況を打破するために岩尾氏が提唱するのが「経営教育」である。これは、単に金儲けのノウハウを教える金融教育とは一線を画す。金融教育について岩尾氏は、「中途半端にかじると騙されやすくなる」と警鐘を鳴らし、それよりも「経営教育のほうがいい」と断言する。経営教育とは、誰かから奪うことではなく、「価値は作れる」という発想に基づいている。この考え方は、人間を明るくし、より良い社会を築くことにつながると岩尾氏は強調する。

「人本主義」経営への転換

岩尾氏は、現代の資本主義が「かなり行き詰まっている」との認識を示し、「人本主義が大事だと思っている」と語る。これは、渋沢栄一も提唱した「合本主義」にも通じる考え方である。資本、土地、お金といったものは、本来「人間がいないとワークしないもの」であるにもかかわらず、現代社会では「人間がそれに振り回されている」と指摘する。

岩尾氏は、お金そのものが資本であるとする資本主義に対し、「全く肯定していない」「むしろ批判している」と明確に述べる。日本的経営にこだわるのも、アメリカ的な株主資本主義が経営学の暗黙の前提とされていることに対し、「内側に入って、主流派なんだみたいな顔をして実は反対に持ってく」という意図があることを明かした。

日本への生産拠点回帰と「人の価値」

トランプ大統領の登場や米中対立の激化など、世界経済の状況は大きく変化している。岩尾氏は、今後「アメリカも中国からもあるいは東南アジアからも日本に生産拠点が戻ってくる」という見方を示す。地政学的なリスクや円安の進行など、日本に有利な追い風が吹いていることが背景にある。

一方で、日本はアメリカのように「一国で完結」できる国ではないため、完全に自給自足は難しいとも指摘する。しかし、日本の製造業には大きな強みがあると岩尾氏は語る。「日本の生産現場には実直な人多い」とし、マニュアル遵守や品質の高さなど、日本人の「真面目さ」が世界的に見ても突出していると評価する。さらに、トヨタなどを中心とした「生産のやり方についてのノウハウは世界一」と述べ、これらのノウハウが国内に回帰する繊維産業などにも移転され、「人の価値は上がる」と見通しを語った。産業界においても「国内回帰はしないといけないよな」という空気が非常に強いという。

日本企業の真の強み

多くの人が「古い体質でダメだ」と固定観念を持っている日本企業だが、岩尾氏はその考え方が間違っていると指摘する。日本企業には、歴史的に見ても「人の価値をどんどん高めていく」という強みがあると語る。「お金の価値が高くなりすぎると人ないがしろになる」という現状に対し警鐘を鳴らした。

慶應義塾大学の岩尾俊兵准教授は、現代の資本主義が行き詰まりを見せ、お金が人間を振り回している現状を打破するために「人本主義」に基づく経営教育が不可欠であると説く。日本企業が本来持っている「人の価値を高める」という強みは、まさにこれからの時代に求められるものであり、国内への生産拠点回帰の流れと相まって、日本の「人の価値」はさらに高まっていくだろう。はたして、日本は「お金より人」を重視する新たな経済モデルを世界に提示できるだろうか。

これからは「お金より人」の時代!実はイノベーションの秘訣は「日本的経営」にあった…(慶應義塾大学商学部准教授 岩尾俊兵)【ニュースの争点】

コメント