安倍首相が辞任を表明 7年8か月の安倍政権は何によって支えられていたのか?

ニュース・コラム

8月28日、安倍晋三首相は持病の「潰瘍性大腸炎」が悪化したことを理由に辞任を表明。記者会見では「国民の皆さまの負託に自信を持って応えられる状態ではなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではない」と語った。7年8か月続いた安倍政権もついに終わりを迎える。

安倍政権が長く続いたのは選挙が強かったからだ。特に第二次安倍政権での選挙の強さは別格で、5回の国政選挙全てにおいて圧勝している。「国政選挙で5連勝中のトップを代える必要はない」という空気が党内を支配し、これでは「安倍おろし」が起こるはずもない。安倍政権が選挙に強かった理由はいくつかある。

対抗できる野党が存在しない

最大の理由は、対抗できる野党が存在しないからだろう。「悪夢のような民主党時代に戻るわけにはいかない」と安倍首相が語ったように、民主党時代の三年三か月は国民にとって正に悪夢であった。

代表の鳩山由紀夫氏は、選挙中に沖縄米軍基地移転に関連し「普天間基地は最低でも県外」と公言し、辺野古への移転で合意していた基地問題に水を差した。これが原因で内政が混乱し、同盟国であるアメリカとの関係も悪化させた。今日まで続く沖縄のゴタゴタは民主党時代の鳩山由紀夫氏が招いたものなのだ。

鳩山由紀夫首相

鳩山由紀夫首相(当時)

鳩山首相の後を引き継いだ菅直人首相は、原発事故への対応に失敗した。福島原発が危機に陥っていることを知った菅首相は、原発をヘリで視察し現場を大混乱に陥れた。これについて当時の吉田昌郎所長(故人)は「介入は現場を混乱させ、重要判断の機会を失し、判断を誤る結果を生むことにつながりかねず、弊害の方が大きい」と述懐している。現場の混乱はその後最悪の事態を招く原因となった。

元民主党議員にとって不幸なのは、東日本大震災とセットとして語られることだ。巨大地震が起きたのは民主党のせいではない。しかし、原発事故や東日本大震災を語る際には「民主党時代は酷かったよね」と、まるで民主党のせいで巨大地震が起こったかのように語られてしまう。元民主党議員の顔を目にする度に、津波で逃げ惑う人々の姿や、原発が爆発する映像がフラッシュバックするのだからしかたがない。筆者が「野党が政権を取ることはない」と断言する理由はそこにある。東日本大震災のトラウマが残っている限り、国民は野党に投票しようという気にならない(そこまで日本人が馬鹿ではないと信じたい)。

民主党政権があまりにも酷かったため、多くの国民は「二度と野党に政権を取らせまい」と誓ったはずだ。その結果、賛否ありながらも、長い間日本のかじ取りを担ってきた自民党以外に選択肢が無くなってしまった。安倍政権が7年8か月も続いたのは自民党が強いというよりも、自民党に代わる野党が存在しないからだ。消去法で自民党を選択せざるを得ないのだ。

保守層の取り込み

もう一つの理由は、保守層の心をガッチリ掴んだことにある。安倍首相は総理大臣に就任して以来「戦後レジームからの脱却」が必要だとして改憲を主張してきた。具体的には憲法9条の改正だ。

日本国憲法第9条には「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。 国の交戦権はこれを認めない」と書かれている。

中国が尖閣諸島の領有権を主張し、北朝鮮が核実験を繰り返している昨今の情勢を考えれば、現行憲法のままでは心もとない。安倍首相は「現行法のままでは国民の命が守れない」と考えていたのではないだろうか。

魚釣島

尖閣諸島(魚釣島)

保守層にとって憲法改正は悲願。保守層はどんな失政をしようと、憲法改正を掲げる安倍政権を支持し続けた。憲法改正の前では、消費増税による景気悪化や、新型コロナへの対応が失敗したことなどは些細な問題なのだ。

安倍政権は常にマスコミと野党から「反安倍キャンペーン」に晒されてきた。森友・加計学園問題での「お友達優遇キャンペーン」に始まり、特定秘密保護法や安全保障関連法での「強行採決キャンペーン」、桜を見る会や検事総長人事での「政権私物化キャンペーン」など挙げればきりがない。そうした逆風に直面しながらも、政権を維持できたのは、憲法改正を信じて安倍政権を支えてきた保守層のお陰なのだ。

公明党との選挙協力

もう一つ忘れてならないのは公明党の存在だ。5回の国政選挙で圧勝できたのは、公明党の選挙協力があったからだ。

2012年の衆議院選挙で自民党は絶対安定多数を超える294議席を獲得し、民主党から政権を奪取することに成功。後日、安倍首相は公明党の山口那津男代表と連立合意文書を交換し、自公連立が三年三か月ぶりに復活した。公明党の選挙協力を得ることによって、衆院選挙の接戦区に於いても安定して勝てるようになった。以来7年8か月、安倍政権は公明党の協力のもと選挙を勝ち続けてきた。

公明党 山口那津男代表

公明党 山口那津男代表

公明党との連立は安倍首相にとって足枷にもなった。公明党は憲法改正に消極的だからだ。公明党の山口那津男代表は憲法改正に対して「安倍総理大臣として憲法を決定する権限はない」「政治的な課題の優先度は必ずしも高い方ではない」「改正をするには議論が熟していない」と口にしてきた。

創価学会の票を宛にする自民党にとって公明党の意見は無視できない。公明党との選挙協力は、結果的に憲法改正議論を後退させることい繋がった(その後、自民党の公明党依存体質は更に深まり、今では止めたくても止められない麻薬中毒患者のようになっている)。

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安倍政権が7年8か月も続いたのは、結局のところ選挙に強かったからだ。安倍首相は憲法改正を信じ支え続けた保守層と、選挙を一緒に戦ってくれた公明党、それと弱い野党に感謝すべきだろう。

7年8か月続いた安倍政権は終わりを迎える。だからと言って自民党時代が終わるわけではない。自民党に対抗できる野党が直ぐに出てくるとは思えないし、公明党との選挙協力が解消されるわけでもないからだ。他に選択肢が無い以上、保守層も相変わらず自民党を支持し続けるだろう。

何はともあれ、安倍首相お疲れ様でした!

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