政治ジャーナリストの鮫島浩が高市早苗氏の次期総理総裁就任を阻む「三つの壁」を徹底分析する。少数与党国会での野党連携、アメリカの対日韓政策、そして岸田前総理大臣と現執行部の動向が複雑に絡み合い、さらには「まさかの野党連立・玉木政権爆誕」の可能性まで示唆される混沌とした政局の深層を読み解く。
「参政党対策」で高市氏に集まる期待
次期総理総裁選で「本命はズバリ高市早苗」と目されながらも、その実現には複数の困難な壁が存在する。政治ジャーナリストの鮫島浩は、高市氏が昨年の総裁選で第一回投票でトップに立った経緯がある一方で、党内基盤の弱さを指摘する。昨年の総選挙、今年の参議院選挙で自民党の右派議員が次々と落選しており、高市氏の「党内基盤は弱まっている」のだ。
それでも高市氏がトップを走るのは、「自民再建のためには石破政権で自民党から離反した保守層を取り戻す必要」があり、そのために「高市氏を担ぐしか」ないという危機感が、選挙の最前線に立つ各地方の自民党員に広く浸透しているためだという。
「参政党対策」で高市氏に集まる期待
今夏の参議院選挙で、自民党より右に位置する参政党が保守層を「かっさらって大躍進」したことで、「相手が立憲民主なら政権を失うことはないが、参政党の方がよほど脅威だ」という警戒感が自民党内に広がったと鮫島氏は語る。このため、移民対策などの右寄り政策に寄り添い、保守層を引き戻す必要があり、その点で支持層が重なる高市氏を担ぐのが「ベストだ」と見られている。
高市氏は麻生太郎元総理と会談し、旧安倍派や旧茂木派が主導する総裁リコールを求める署名活動にも署名するなど、「臨戦体制に突入」している。鮫島氏は「旧安倍派、麻生派、旧茂木派の支持を固めることができれば、一挙に本命に躍り出るのは間違いありません」と分析する。
高市氏に立ちはだかる「三つの壁」
しかし、高市氏の総裁就任を阻む具体的な3つの壁が存在すると鮫島氏は指摘する。
野党の壁:少数与党国会と玉木政権爆誕の可能性
高市氏に立ちはだかる最大の壁は、「衆参両院で与党が過半数を割っている少数与党国会」である。総裁選で勝利しても、国会で総理大臣の指名を受けられるとは限らないのだ。
現在は立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の間で野党連立政権を組む動きはないものの、高市政権が誕生した場合、「話が違ってくる」可能性がある。特に立憲民主党には、「極右と見られる高市政権誕生は絶対に阻止しなければならない」という強い空気があると鮫島氏は語る。
高市政権阻止のためなら、野党全体から「野田義彦政権を諦め、参議院選挙で躍進した国民民主党の代表を総理に担ぐ野党連立政権の方がマシだ」という声が上がる可能性があり、実際、「社民党で当選したラサール石井は、石破総理をここ最近の自民党の総理の中では一番まともと評価し、やめたら高市政権が生まれる、それだけは避けたい、石破辞めるなと投稿」しているという。
SNSでは「高市政権阻止を求める野党が石破辞めるなを次々と投稿し、ついにトレンド入り」し、官邸前で「石破を激励する野党主導のデモ」まで呼びかけられている。「石破総理を支持するのは今や自民党支持層ではなく野党支持層である」という「ねじれ現象」が生じているのだ。
鮫島氏は、高市氏が自民党総裁になった場合、野党各党が「高市政権阻止の一点で連携」し、政策の違いや過去の因縁を乗り越えて「国民民主党の代表を担ぐ野党連立政権が誕生する」という「想定外のシナリオ」も「あながちないとは言えない」と警告する。
アメリカの壁:日米韓連携の懸念
高市氏に立ちはだかる二つ目の壁は、アメリカの動向だ。昨年の総裁選でも、「高市政権誕生に最も強く危惧を示したのがアメリカでした」。米国大使館は自民党議員に対し「高市だけは勘弁してほしいと露骨に働きかけ」たという。
アメリカの東アジア外交の基軸は「日米韓の連携による中国の封じ込め」である。高市氏が総理になっても「靖国神社を参拝するかもしれない」という懸念があり、これが「韓国世論を刺激し日韓が対立し、日米間の連携が揺らいで中国を利する」という「アメリカの想定する最悪の展開」につながることを恐れているのだ。岸田総理が当時の総裁選で高市氏ではなく、決選投票で石破氏支持に回ったのも「こうしたアメリカの意向に沿ったもの」であったと鮫島氏は語る。トランプ政権下では高市氏へのアンチは弱いかもしれないという見方もあるが、「アメリカの国務省国防総省のメインストリームはやはり今でも高市待望論が根強い」とされている。
岸田総理が即時退陣を避け8月末まで偽いることにしたのは、高市氏が「終戦記念日の前に総理に就任し靖国神社を参拝することだけは絶対に避ける」という意向があったという見方もできると鮫島氏は推測する。
岸田前総理大臣の壁:党内反高市勢力と総裁選ルール
高市氏に立ちはだかる三つ目の壁は、岸田前総理大臣と現執行部の動向だ。昨年の総裁選で高市氏が逆転負けしたのは、「アンチ高市のドンが岸田さんだった」ためである。「岸田さんを引き込まない限り再び高市包囲網ができてしまうかもしれない」。
問題は「岸田さんも総理再登板に意欲を見せている」ことだ。相手がリベラルな林官房長官や小泉進次郎氏、小林鷹之氏であれば高市氏が有利とされるが、「相手が岸田総理ならアンチ高市連合が一番できやすい」。
総裁が任期途中で退任する場合、議員と都道府県連代表のみが投票する緊急総裁選が実施できるが、今回の参議院選挙敗北後の総裁選では、党員も参加する「正規の総裁選を実施すべきだ」という声が強まるだろう。高市氏は「人気は高い一方国会議員の地盤は決して強く」ないため、党員参加の有無が勝敗に大きく影響する。
総裁選ルールを決定するのは現執行部であり、「石破総理も森山幹事長もアンチ高市」である。森山幹事長ら現執行部と麻生元総理や反執行部が「一転して高市阻止で手を結ぶ」、そして「岸田前総理を担いで党員なしの総裁選で一気に勝負を決める」という展開を、高市氏の「政治手腕」が阻止できるかが問われている。
高市早苗氏が次期総理総裁に就任するためには、党内における支持基盤の強化に加え、野党の連携と少数与党国会、アメリカの対日韓政策における警戒感、そして岸田前総理大臣と現執行部の動向という、三つの大きな壁を乗り越える必要がある。これらの複合的な要因が絡み合い、高市氏の総理総裁への道筋は決して平坦ではないことが示唆されている。はたして高市氏はこれらの壁を打ち破り、日本のトップリーダーの座を掴むことができるだろうか――。




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