自民党総裁選 選挙で勝ち続ける為には誰を次期総裁に担ぐべきか?

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安倍首相の辞任表明を受け、ポスト安倍レースが加速している。総裁選のキーを握る二階俊博幹事長と麻生太郎副総理の支援を取り付けた菅義偉官房長官が一歩リード。岸田文雄政調会長が次点。石破茂元防衛大臣は「両院議員総会」で選出することになり厳しくなった(河野太郎防衛大臣は出馬を見送った)。

次期総裁には誰が相応しいのか? 自民党議員の視点から考えてみよう。彼らにとって一番の関心事は「選挙で勝つこと」だろう。自民党議員は安倍政権の下で選挙に勝ち続けてきた。特に、第二次安倍政権での選挙の強さは別格で、5回の国政選挙全てに於いて圧勝している。

安倍政権はなぜ選挙に強かったのか?

安倍政権が選挙に強かった理由は3つある。一つは対抗できる野党がいなかったから。三年三か月に及ぶ民主党時代があまりにも酷かったため、多くの国民は「二度と野党に政権を取らせまい」との誓いを立てた。その結果、賛否ありながらも、長い間日本の舵取りを担ってきた自民党を選ばざるを得なくなった。

もう一つの理由は、保守層の取り込みに成功したからだ。安倍首相は総理大臣に就任して以来「戦後レジームからの脱却」が必要だとして憲法改正を主張してきた。具体的には憲法9条の改正だ。中国や北朝鮮が狂暴化している昨今の情勢を考えれば、現行憲法のままでは心もとない。保守層にとって憲法改正は悲願であり、どんな失敗を犯そうとも安倍政権を支持し続けた。

もう一つは公明党との選挙協力があったからだ。2012年の衆議院選挙で大勝した安倍首相は、公明党の山口那津男代表と連立合意文書を交換し、自公連立が三年三か月ぶりに復活させた。公明党の選挙協力を得ることによって、衆院選の接戦区に於いても安定して勝てるようになった。

自民党に対抗できる野党は当分現れそうもないし、公明党との選挙協力も当分続く。となると重要なのは「保守層を繋ぎとめることができるか」という点だ。

保守層は安倍政権のどのような点を評価してきたのか?

保守層は安倍政権のどのような点を評価してきたのだろうか? 「憲法改正」以外に、筆者は以下の3点を挙げたい。

日米同盟の強化

安倍首相はトランプ氏が大統領に就任するとゴルフクラブを抱えて真っ先に駆けつけた。以後、トランプ大統領とゴルフ外交を繰り返し、日米同盟強化に全力を注いだ。言うまでもないが、日本の安全保障はアメリカに依存している。安倍首相とトランプ大統領の友情は、日本の安全保障を強化することに繋がった。

安倍首相とトランプ大統領 ゴルフ場でのツーショット

安倍首相とトランプ大統領 ゴルフ場でのツーショット

中国封じ込め・韓国に対する厳しい姿勢

膨張する中国を封じ込めるため、安倍首相はアジア・欧米各国を歴訪した。第二次安倍政権に於ける訪問国数は62、首脳会談は370回にも及び、これは「安倍外交」と呼ばれた。南シナ海に於ける中国の横暴に対しても、安倍首相は、日本・アメリカ・オーストラリア・インドで作る「セキュリティダイアモンド構想」を提唱。アメリカに進言し、今では正式に採用されている。慰安部問題を蒸し返し、事ある毎に日本を批判してきた韓国に対しても厳しい姿勢を貫いてきた。

皇室継承問題

安倍首相は、皇位継承問題について、2019年の委員会で「旧宮家の皇籍復帰も含めたさまざまな議論があることは承知している」と述べている。「日本の尊厳と国益を護る会」との会合でも「男系継承が古来例外なく維持されてきた重みなどを踏まえ、慎重かつ丁寧に検討を行う必要がある」と語った。安倍首相は男系による皇位継承を支持している。

安倍政権は常にマスコミと野党から「反安倍キャンペーン」に晒されてきた。森友・加計学園問題での「お友達優遇キャンペーン」、特定秘密保護法や安全保障関連法での「強行採決キャンペーン」、桜を見る会や検事総長人事での「政権私物化キャンペーン」等々・・ そうした逆風に直面しながらも政権を維持できたのは、安倍政権を支持し続けた保守層のお陰なのだ。

候補者三名の考えは?

保守層を繋ぎとめるためには、憲法改正を含む上記3点を抑える必要があるだろう。では、候補者三名はそれらに対して、どのような考えを持っているのだろうか?

菅義偉官房長官
菅義偉官房長官

菅義偉官房長官

皇位継承問題について、菅義偉官房長官は、8月25日の記者会見で「安定的な皇位の継承の維持は、国家の基本に関わる極めて重要な問題だ。男系継承が古来例外なく維持されたことの重みなどを踏まえながら、慎重かつ丁寧に検討を行っていく必要がある」と語った。

憲法改正については、2012年の衆院選で毎日新聞のアンケートに「(改憲に)賛成」と回答している。8月7日のネット番組でも「衆参両院の憲法審査会でそれぞれの政党が考えを述べて、進めていくことが大事だ」と語っている。中国や韓国に対しては安倍政権の元、厳しい姿勢を貫いてきた。

創価学会幹部と太いパイプを持っているというのも心強い。選挙協力の責任者である佐藤浩・副会長とは親しい間柄だ、公明党を通さずに直接、学会中枢と話ができるのは党内で唯一、菅氏だけと言われている。

岸田文雄政調会長
岸田文雄政調会長

岸田文雄政調会長

岸田文雄政調会長は、8月25日の講演で「憲法は国の基本を定める。時代の変化とともに検証していくことは大事だ」と語り、憲法改正を推進していくことを明言した。

皇位継承に関しては、8月24日の記者会見で「男系天皇を維持してきた歴史の重みを強く感じている」と強調。男系継承を尊重する意向を示した。

領海侵入を繰り返す中国に対しては「一方的に現場の緊張を高める行動をとっていることは断じて受け入れられず、あらためて強く抗議する」と抗議するなど、安倍政権の元、厳しい姿勢を貫いてきた。

日韓関係については「冷静な外交、対話を行う環境整備も大切だ」と語ったうえで「国際法、国際儀礼はしっかり守らなければいけない。原則をしっかり考えていただく努力をしなければ、今の状況は変えられないと心配している」と是々非々で取り組む考えを示した。

石破茂元幹事長
石破茂元幹事長

石破茂元幹事長

石破茂元幹事長は、皇位継承問題に対して、2019年のテレビ番組で「皇室が途絶えることは国の本質が変わることだ。女系だからダメだという議論には賛同していない」と述べている。

憲法改正については、1月に「(憲法9条改正の)ハードルは非常に高い。政治の最優先課題だとは思わない」と9条改正については否定的な考えを示す一方、憲法改正については「国防軍の設置を明記した野党時代の改正案が自民党の唯一の案と考えている」と述べている。

中国に対しては、7月3日の講演会で「香港国家安全維持法」が施行されたことに関連し「中国は物事の考え方の基本が大きく違っている」と批判している。

日韓関係については、8月23日付のブログで「わが国が敗戦後、戦争責任と正面から向き合ってこなかったことが多くの問題の根底にあり、さまざまな形で表面化している」と分析。慰安婦問題についても「韓国が納得する時まで謝らなければならない」と主張するなど、安倍首相の歴史認識に批判的な考えを示している。

次期総裁に相応しいのは?

「保守層を繋ぎとめる」という点から、三名の考えを見てきた。憲法改正については、三名とも前向きな考えを持っている。自民党の結党理念が「憲法改正」にあることを考えればこれは当然と言えよう。日米同盟についても、日本の安全保障の根幹をなすという共通認識を持っているようだ。

大きく異なるのは皇位継承問題に対する姿勢だ。岸田氏と菅氏が女性天皇・女系天皇に対して否定的な考えを持っている一方、石破氏は前向きな考えを示している。また、菅氏・岸田氏が中国や韓国に対して厳しい姿勢す一方、石破氏は韓国に対して融和的な姿勢を示している。

「保守層を繋ぎとめる」という点で考えると、菅氏もしくは岸田氏が相応しいと言える。なぜなら、保守層にとって皇室の男系継承は絶対に譲れないからだ。保守層は皇室の価値を代々引き継がれてきた男系血統にあると考えている。女性天皇が誕生すると男系血統が失われてしまうので絶対に容認できないのだ。保守層にとって石破茂氏は皇室を破壊する悪魔に見えるはずだ。

韓国に対して融和的な姿勢を示したことに怒っている人も多い。したがって、石破茂首相が誕生したら保守層は離れるのではないだろうか。

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保守層が離れれば支持率は落ちるだろう。安倍政権の支持率は、どんなにバッシングを受けようとも30%前半を下回ることはなかった。これは何があっても政権を支持し続けてきた保守層のおかげだ。

安倍内閣支持率(NHK調査)

安倍内閣支持率(NHK調査)

保守層が離れてしまえば、バッシングへの抵抗力が無くなり、将来的に30%を割り込むことも考えられる。接戦区での敗北も目立つようになり、これまでのように「国政選挙で圧勝」という訳には行かなくなるだろう。

自民党議員は当然ながら「これまで通り選挙で勝ち続けたい」と考えているはず。であるならば、誰が次期総裁に相応しいのか自ずと見えてくるはずだ。

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